つか性欲とか言えばなんでも通るだろみたいなのやめてくんない?

最近話題の件。まあ深く関連しないけどちょっとしたポイントなので書く。
この手の話の場合に、特にこれを擁護したい側から決まり文句のように出る以下のような発言・認識がある。

戦時中の旧日本軍の慰安婦についても「意に反して慰安婦になった方は気の毒だ。それが戦争の悲劇であれば、だから戦争なんかするものではない」とする一方、「人間に、特に男に、性的な欲求を解消する策が必要なことは厳然たる事実」「世界各国を見れば、軍人の性的欲求の解消策が存在したのは事実」と重ねて主張した。

http://www.asahi.com/politics/update/0514/OSK201305140009.html


この手の理屈のバリエーションはそんなになく、要はそれは成人男性の生物学的・生理的・自然的欲求なのであって(本能と言った政治家もいたなw)、避けることができないというもの。

性欲が生物的な欲求であることは当然その通り。
だがそのような性欲が、世界史上に普遍的に見られる性暴力や性産業の原因であるというのは基本的にはマチガイである。
ちょっと考えればわかるが、そんなことをしなくても性欲を満足="落ち着かせる"ことは実に手軽に短時間に無料で安全にしかも一人でw できるからだ。
しかし単に生理的欲求を満足させるだけでは"落ち着かせる"事ができない要素があり、それが例えば性産業の存在意義になっている。では性産業は野郎どもの何を満足させようとしているのか?
それは性的な「欲望」で、生物的な欲求とは別のものだ。
欲望は社会的・文化的なもので、いわば観念的なもの。自慰や買春がしばしば「虚しい」のは、この欲望が十分には満たされないからだ。
欲望は観念的なものなので、全く必要不可欠なものではない。
一方、生理的欲求を満たすことは生存に不可欠だ。
例えば軍隊では、兵士たちの生理的な・不可欠な欲求には無償で応える。食料も休息も健康や作戦遂行に必要だからだ。
他方どこの軍隊でも性的なサービスが無料で提供されることはない。煙草や酒と同様、別に不可欠ではないからだ。ココ重要。
ではなぜ彼らはそれを不可欠であるかのように語るのか?
具体的に男の性的な欲望がどんなものかといえば、彼らの実際の性行動を見ればわかる。
現代ならば一般には「女性に対する性的行為」だ。
性産業は俗に「射精産業」といわれたりするが、実際には「射精による快」は性的欲望にとって取るに足らない要素。というか「身体的・生理的な快」自体が本質的ではない。
これは橋下のツイートにもある通りだ。彼はちゃんと分かっている

批判者は、風俗業=売春業=性行為と短絡的に考えているね。日本人は賢いから、性行為に至る前のところで、知恵をこらしたサービスの提供を法律の範囲でやっているよ。そして今の日本の現状からすれば、貧困からそこで働かざるを得ないと言う女性はほぼ皆無。皆自由意思だ。だから積極活用すれば良い。

橋下徹 on Twitter: "批判者は、風俗業=売春業=性行為と短絡的に考えているね。日本人は賢いから、性行為に至る前のところで、知恵をこらしたサービスの提供を法律の範囲でやっているよ。そして今の日本の現状からすれば、貧困からそこで働かざるを得ないと言う女性はほぼ皆無。皆自由意思だ。だから積極活用すれば良い。"


では何が「欲望」の本質か? は専門家にでも聞いてくれ。
ただ結果論として言えることは、男性のこの内的な(そうでありながら集合的な?)観念が、現実の社会に再現され、その際に対象=女性に対しある種の強制力が働いていることだ。
それは男の妄想であって、女のものじゃないのだが(彼女たちには彼女たちなりの性的欲望があるだろう)、彼女たちは「男の欲望」を現実に再現する*1
だが彼女たちにはそうする内的な必然性*2など無いのだ。にもかかわらずそうする。
結果論的には、そこにはある種の強制力があると考えるほかない。

例えばその強制力は、単純な腕力の場合もあるだろうし、もっと文化的なものかもしれない。強いられる側に被害感情を持たせるような非道なものであるとも限らない。*3
そこら辺も専門家に聞いてくれ。

問題は、「男」の側だ。現にそのような「広義の強制」が働いているにもかかわらず、それが彼の意識において問題視されない。自分に都合がいいからだが、むしろその正当化のための尤もらしい理屈が成り立っているからだ。
それは「男性の生理的な欲求」、不可避なもの・自然的なものとしての性欲、という理屈だ。
この、男性という生き物の「学術的な定義」が、全ての女性への性暴力・性的搾取は、善悪を超え、男性の責任能力さえ超えた、自然的・必然的な現象だとする無責任な主張の根拠として機能している。
だがこのりくつはおかしい。
上述の通り、これはフィクションだ。ニセ科学である。*4
だからすべての男性が悪い、と言えば今日からキミもフェミニストだが、実際のところ問題はこれが一定の傾向を持って再生産されることで、それを可能にしているのは具体的に発言されるニセ科学的な言説=プロパガンダだ。
そしてそれが意図的・目的的に行われているなら、もはや「性差別主義」という他ない。
その根底には女性蔑視があるかもしれないが、誰が誰を軽蔑しようが勝手である。その蔑視があたかも客観的な正当性のあるものであるかのように語ることこそ問題なわけだ。

:追記
実際のところ、戦場のような極限的な状況についてはよくわからないし、そのような場での性暴力はむしろ上記のようでなく、極度のストレスによる攻撃衝動のようなものなのかもしれない。
むろんそうであるなら尚更、性的なサービスが彼らの攻撃衝動の緩和に役立つとは思えない。また別の問題だからだ。

*1:強姦される者として、ツンデレな彼女として、上手に客を騙していい気持ちにさせてくれる風俗嬢としてetc.

*2:「自由意思」と言ってもいい。

*3:実際のところ、「強いられている」のは男だって同じだがな。

*4:トンデモさんは「科学的」であることを非常に好むが、これ以外にも「文化」を論拠にするタイプもおり、こちらはより厄介である。