クリミアにおける19世紀と21世紀(の悪魔合体)

ウクライナでのゴタゴタにロシア(以下プーチン)が首を突っ込んでいる。
特にプーチンウクライナのクリミア地域における「ロシア系住民の安全」のためと称して、同地にロシア軍を展開・駐留させるというやり方には、多くの人がヒトラーを想起したとしても無理はない。

ウクライナのハルチェンコ大使は2日、都内でNHKのインタビューに応じました。
この中でハルチェンコ大使は、ロシアが、ウクライナのロシア系住民とロシアの国益を守る権利だとして、軍事介入の構えを見せていることについて、「ウクライナで今起こっていることは、1930年代にナチスドイツが自国民の保護を名目に各国に侵攻した状況と似ている。国際秩序への大きな挑戦だ」と述べ、ロシアの対応を厳しく非難しました。

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20140302/t10015649911000.html

さて当時、このドイツの行動に対するイギリス・フランスなどの当初の対応が「弱腰」だったとの評価が定着している。
同様に今回のプーチンの行為に対してアメリカ/オバマの対応が「弱腰」と見る向きもあるようだ。オバマは就任以来、外交下手との評価があり、特に日本人的には中国に対する「弱腰」を指摘する人たちも多い。
だが本エントリは現今の緊迫するウクライナ情勢について考えるものではない。一連の情勢を見ていて、現在個人的に悩んでいる小学生の社会科を思い出したのでそれについてだ。この出来事は、ベルサイユ体制あたりと日本の膨張政策のかかわりの説明に使えそうに感じた。受験には最近の出来事も出る。

20世紀的秩序の始まり

ウチの子は社会科が苦手だ。いまは日本史に苦戦しているが、要するに単純な暗記が苦手らしい。歴史的事件と年号を個別的にただ無意味に記憶していくということができない。
こういう子は男子に多く、対応としては全体の流れを把握させ、個別事例を全体の中で意味を持つ事柄として位置づける、というのがセオリーだ。
ということで、三国干渉とか国際連盟とか対日石油禁輸とかを、こうだからこうなった、こうしたからこうなった、的に説明するといい。関連が明らかになれば、個別事例は芋づる式に把握することができる。
ええ自分用まとめですよ。間違ってたら茶々入れてくれ。あくまで小学生/中学受験レベルの社会科だ。慰安婦は出てこないぞw。
20世紀に入って科学技術が発展し、戦争で大量の人間が死ぬようになった。
1904年の日露戦争での与謝野晶子の例の詩もこれを受けてのものだ。
一方欧州では1914年に20世紀最初の大きな戦争、第一次世界大戦が起こっており、これでとんでもなく人が死んだ。
これを受けて、とりあえず戦争はもうしない方がいいということになり国際連盟を作った。
第一次世界大戦オーストリアの皇太子が殺されたっつーちいせぇ事(by息子)で大戦争が起こっており、今後は些細なことで戦争が始まらないように、なんか起こったらすぐ戦争せずにまず話し合いましょうとした。
その時の決め事が、
イザコザが起こったら国際会議の場で話し合いましょう
こじれたら他の国が事実関係を調査し、悪い方にやめるよう注意します
それを無視したら、他の国が協力して経済制裁をします
というもので、このステップは現在の国際連合でも踏襲されている。たとえば2014年現在、北朝鮮経済制裁を受けており、またシリアには国連調査団が入っている。
またこのステップが最初に適用されたのが1931年満州事変(〜日中戦争)で、日本はいろいろ言い訳をしたが結局調査団に日本が悪いと言われ、国際連盟の決議を拒否して脱退したら誰も石油を売ってくれなくなった。
困った日本は石油を奪うしかないと考え、一番近い産油地域東南アジアに攻め込む事にしたが、そこには米軍がいるので必然的にアメリカと戦争することになったのが1941年。

さてウクライナ

この小学生的歴史観によると、戦争を当事者同士の問題としてではなく、多くの第三国が関与しつつコントロールしていこうとする発想はこの時はじめて生まれたもので、いわば20世紀的な国際秩序の発想だと言っていい。20世紀の戦争テクノロジーがもたらす危険性の認識が根底にあるからだ。
一方、当時のドイツと日本はこの20世紀的な秩序維持の発想が持ててない。結局、単に自分が攻め込んだ国だけでなく、世界中を敵に回すことになる。
ヒトラーオーストリアに攻め込んだ時、当初各国が実力行使に出なかったのはあくまでもこの新しいステップを踏むためだったが、その発想のないヒトラーには単に「弱腰」と見えた。
恐らく今オバマも、プーチンに対してこのステップを踏もうとしているので、それを「弱腰」と見るのは19世紀的な国際秩序理解だ。この次には国連調査団がウクライナに入り、何らかの裁定が行われるだろうし、経済制裁になるかもしれない。
今はむしろ国連における名分をおさえなかったブッシュの2003年イラク戦争こそ国際秩序の無視だったと評価されており、オバマはそれを避けたいはずだ。

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さて大人の話だが、実際のところプーチンが19世紀的な頭の持ち主である可能性は否定できない。その時ロシアのような大国に対して最終的に何ができるのかは微妙だ。
それにプーチンの頭が何世紀だろうが現在は21世紀で、ロシア軍はそれにふさわしい形態をしている。

親ロシア派住民の多いウクライナ南部クリミア半島に2月末、突如出現し、空港などを占拠した謎の武装集団について、ロシア政府と契約関係にある民間軍事会社の要員であるとの見方が米国内の報道で出ている

http://www.jiji.com/jc/c?g=int_30&k=2014030200244

これはもっぱら21世紀になって米国がやってることだ。民間軍事会社に作戦行動を委託することで国家の責任を逃れることができる。国家間戦争には国際条約に基づくルールがあるが、民間企業の作戦行動にはそれは及ばない。
アブグレイブでの捕虜の虐待・拷問はもっぱら民間企業が行っており、これほど非難されながら米国政府が知らん顔できるのはそれが国家とは関係ない企業活動だからだ。)
無論これはロシアの企業だって同じだ。
もはやプーチンは怖いもの無しだ。「国家間紛争」を念頭に置いた20世紀的な国際秩序のルールから大手を振って外れることができる。今は21世紀なのだ。