アメリカの911同時多発テロが起こってからしばらく後、知人のアメリカ人がボソっとこんなことを言った。
「アメリカが世界中からこんなに嫌われているなんて知らなかった」
当時すでにインターネットもアルジャジーラも存在している。3大ネットワークとCNNだけが情報源じゃなくなっている。
彼女に限らず、同様の言葉は当時いろんな場所で耳目にしたように思う。
今ロシアのウクライナ侵攻の報道や情報に接していて感じるのは、自分は西側の情報環境にいるのだということだ。
インターネットは911当時からは飛躍的に情報量が増している。ゴミ屑みたいなのも含めてだがw
それでも何となく、我々が様々なレベルで接している情報がどうやら意図的に方向付けられたものだという感じがする。これまでより強くだ。
特にキエフ侵攻が迫ってくるにつれ、我々が目にする情報は情緒や感情に訴えかけてくるものが明らかに増えている。
ウクライナ市民の悲惨な姿、マヌケなロシア地上軍の醜態、爆撃されたショッピングセンター、公園に埋葬される市民の遺体袋。
勇敢なウクライナの前にロシア軍は息も絶え絶えで、おそらくまともな作戦行動が出来ない状態だ。
国内的にもプーチンの批判が公然化し、政権は行き詰まり末期症状に喘いでいる。
かつて超大国といわれた国の、避けがたい破滅がもうそこまで迫っている。
善と悪がわかりやすく色分けされたWWEのプロモーションのような報道の違和感に、我々の多くは普通に気がついているだろう。
つかはっきり言うと、今やオレはなにか安手の「物語」を見ているだけなのではないかと感じはじめている。
ウソをつかれていると言いたいのではない。
ただ現に伝わってくることと、そこからオレが受けとる(ように仕向けられている)ことに不整合がある。
どう考えてもウクライナに勝ち目はない。停戦合意に持っていくのも大変な状態だ。
ロシアの国内は、多少のギクシャクはあるだろうが(そんなものは普段からある)、おおむねプーチンの支持率は盤石である。
伝わってくる報道を単に(文字通りに)読めばそうとしか言えない。
だがそれとは別の水準で、事実報道とは別次元のナラティブで、もう一つの現実が語られている。
例えばロシア軍は壊滅寸前で、一部の辛気臭い連中を除いた世界中の国々は連帯しており、プーチンの軍事的・政治経済的敗北がもうそこに見えている、というような。
それはSNSがどうのという話ではない。
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先に、中国とインドのロシア支援のニュースがあった。
両国共に対ロシア経済制裁には加わらず、ロシアの原油/ガスを購入する(ことでロシア経済を支える)とのことだ。
個人的にはロシア経済は長期的には大して弱らないだろうと思っている。ロシアを支えようとする国はたぶん多い。
つかアジア地域で制裁に参加するのは日韓台だけである。
「西側」が盛り上がってるほど、ロシア征伐に世界は盛り上がっていないのでは?
我々は、21世紀になって何度も繰り返されてきた、自信満々の西側リベラリズムがズッコケる姿をまた見ることになるかも知れないと感じている。
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ロシアも中国も、実はそんなに嫌われていないのではないかと思える兆候はある。
米国といつもの面々がどれほど口を極めて全体主義を罵ろうが、
今プーチンがウクライナでやっていることは、かつてイラクやコソヴォで米軍やNATOがやってきたと同じこと、イスラエルがパレスチナでやっていると同じこと
という事実が消えてなくなるわけでもないし、忘れずにいる人たちも多分多い。
我々のナラティブは、報道事実のうち都合のいい部分だけを都合よくツギハギして、民主主義が世界史的にも道徳的にも勝利する世界線を語りつづけている。
だからこの戦争の帰趨によらず、民主主義の優位性が必ずや再認識されるだろう。
全体主義国家は増えているにもかかわらず(そして成長しているにもかかわらず)、全体主義の行き詰まりも再確認されるはずだ。
だが民主主義の勝利などという「もう一つの現実」に、「外」にいる人たちはいつまで付き合ってくれる?
ロシアや中国の振る舞いとは別に、そもそも彼らから見る我々も、特段民主的でも道徳的でも無いかもしれない。
(そしてそれは、実は我々自身も知っていることだ。)